「紙媒体はオワコンwww」「Webメディアは今後衰退する」「SNSサイツヨ」「これからは動画の時代」などなど、メディア周りは話題に事欠かないが、果たしてオワコンなメディアなどあるのだろうか。
私の結論から言うと「ニーズの細分化にあわせて媒体が増えただけ。パイを分け合うので以前のようにユーザーの独占はできないが、それぞれのニーズに深く応えたメディアとして運営すればいい」である。
というのも、だ。ニーズというのは実に細かい。そして、外から見ているだけではわからない深い事情も多い。
実は私は、一度、「紙媒体はオワコン、これからはWebに力を入れるべき!」と力説して、己の了見の狭さに恥ずかしい体験をしたことがある。
過去のやらかし体験をつまびらかにしながら、これからのメディアの在り方を考えてみようと思う。
結論、「紙の新聞とFAXが最強」だった、とある業界。
私は以前、とある業界の業界新聞にいた。皆さまの日常をコロコロ転がるタイヤだ。
ニッチな業界にも、業界新聞というものは存在する。読者は主に、業界でタイヤを販売したり、足回りの整備をしている、タイヤ販売店の皆さまだ。
新製品の情報や、タイヤメーカーの話、組合の話題。タブロイド判4~8ページの週刊新聞にはニッチな業界情報が踊っている。
私が入社したのは、そんな業界の新聞社が、折しもDXを検討している真っ只中だった。入社して1カ月、やったことといえば、Webサイトの改修だった。
さて、Webサイトが新しくなったら、次は記事のネット配信だ。せっかくWebメディアができたのだから、当然、ネットでも配信したい。
私自身、紙の新聞とおさらばして久しく「紙はオワコン!やっぱこれからは、Webメディアに力を入れて、有料配信ですよ!」と推したわけだ。
イキリまくりである。
とはいえ、時代の流れだから!では押しが弱すぎる。そこで、店舗取材のついでに、あちこちの店で聞き込みをすることになった。
はたして聞き取りから浮かび上がったのは、意外にも、ネットとは逆方向のニーズだった。
曰く。
「オイルが付いた手袋をして作業する環境で、スマホやタブレットなんか見てられない」
という、大変現実的な話だ。
常に人が動き回り、機材が置かれ、手は機械油で汚れている。そんな環境で、仕事の合間に読むなら、断然紙なのだ。
同じ理由で、メールよりもFAXの方が喜ばれていた。
だがしかし、Webメディアもメールも併用していた。なんならLINEグループも。
見出しの通り。なんと皆さま、全部のメディア・ツールを使ってるのだ。
絶対に「紙しか勝たん!!!!」というわけでもない。一仕事終わって手に取るなら、やっぱりスマホなわけだ。コミュニケーションはSNSやLINEも普通に使う。
なんなら、組合全体でLINEグループを作ってワイワイしている県すらあった。
取材時にLINEを交換したら、おじさま方からめっちゃスタンプ来たし、ついでにPRしてくれと写真や動画までたくさん届いた。その節はありがとうございます。
なお、タイヤ業界のおじさま・おじいさまはめちゃくちゃツムツム上手い。とんでもないスコアを叩き出す、ツムツムガチ勢である。それくらいスマホを余裕で使いこなしているのだ。
つまり、「スマホが使えないから紙じゃないと困る!」というわけではない。
日頃から仕入れや経理、そのたもろもろにパソコンを利用しているから、「パソコンなんてわからん、ネットなんて見ない!」というわけでもない。
業界の現場における純然たるニーズが「仕事の合間に見るなら紙」だったわけだ。
かといって、紙以外はいらないわけでもない。「LINEでシェアしやすいから、Webの記事も助かるんだよねえ」という声も多く聞いた。
まさしく「みんな違ってみんないい」だ。
外から自分の価値観を振りかざしているだけでは見えないニーズが、そこにはあった。
かくして、有料配信の話はしぼむようになくなった。
とはいえニーズに応えて記事の配信自体はすることになり、紙面から良さそうな記事をピックアップして、一部を無料で掲載するかたちに落ち着いた。
細かなニーズにフィットしたメディアになっていく時代、畑を育てる気持ちでいたい
以前に比べて生活が多様化した結果、ニーズの細分化もすさまじい。
どれかひとつのメディアが勝ち筋ではなく、すべてのメディアがそれぞれのニーズに深くフィットしていく時代なのだろう。
オワコンと言うならば、確かに古いメディアはオワコンだ。「今まで通り、”なにをしていてもある程度人が来る”という考え方と姿勢でいればオワコン」という意味で。
とはいえ、Webコンテンツ界隈にいると、ついつい勝ち馬に乗りたくなり、一番旬のメディアはどれだ!?となりがちなのは否めない。
クライアントだって、勝ち筋のメディアに注力したいから、「どれが一番人が来ますか?」となりやすい。
だが実際は、ジャンル・業界のニーズをしっかりと掘り下げ、フィットする方が大切だ。
中途半端な人数の数%よりも、少人数でも全員からの圧倒的支持のほうが、よほど安定した継続的な売り上げに貢献する。
話題の勝ち馬を追い掛けるより、自分の畑を丁寧に育てた方が、最終的には勝ちの波に乗るのではないだろうか。
最後に、過去のイキっていた自分に向かって、一言置いておこう。
「すぐオワコンオワコンって言うやつが一番オワコンなんだよ!」