突然だがワッフルを焼いてみた。
理由はいろいろあるが、主にインスタのためだ。
私はリアル&Twitterは石の裏にいるダンゴムシ系ライターだが、密かに人類に擬態してインスタをやっている。
https://instagram.com/otababu_photo
朝はハンドドリップのコーヒーで始まる。
昼近くから午後にかけては、少し気だるげにカフェで仕事。
夕方には好きなバーで軽く一杯。
自由に気ままに泳ぐようにシャレオツな日々を楽しむ、ちょいクールで少し浮世離れしたアラサーアラフォーのノマドライター。
という、どっかの雑誌に載ってそうなステロタイプへのあこがれが捨てられないのだ。
だが現実が私に優しくない。
現実の私は、クライアントからの指示を片手に、ジャージでモンエナ飲んでキーボード叩く等脚目オカダンゴムシ科オカダンゴムシ属オカライターダンゴムシだ。
そんな私のインスタに対する飽くなき挑戦と挫折の話をしよう。
人類擬態インスタの問題点
正直、我ながら人類インスタはいい感じにやれていると思う。
コツコツ続けてフォロワーも1200人を超えた。
「多くは語らないけど、その一瞬の情動を切り取った写真」という美学を据えて、ハッシュタグも控えめに、理想のアラフォー女性ライターの幻影を描けているのではなかろうか。
写真もそれなりにこだわり、風景、花、食べ物と程よくバランスを撮ってきた。
しかし、アカウントを見渡した時、突出した個性がないのだ。
そこそこおしゃれな写真を撮っている自負があるが、これといって特別感のない、どこでも見れるようなよくあるシャレオツ系の焼き直しになっている。
これではいけない。
インスタは戦場だ。多数の企業がプロモーションのために多額の金をぶち込んで殴り合い、それを受けるインスタグラマーたちは時に命がけでバエる写真を撮っている。
ダンゴムシが人類になりたいというほのかな憧れだけでは、フォロワーを獲得して生き抜ける場所ではないのだ。
遊びじゃないんだよインスタは!!!
そこで冒頭の話に戻る。
私は個性を求め、ワッフルを焼くことにした。
すべてはインスタで映えるために…ワッフル召喚
結論がいきなりワッフルに飛躍した理由を説明すると、ちょっと長い。
私の趣味はFF14と燻製作りだ。
仕事中に作った燻製を使ってホットサンドを作り、FF14のプレイの合間に貪るのが好きだ。実益を兼ねた実にいい趣味だと思っている。
ホットサンドに家カフェや手作り。完璧に映えるワードだ。
ほっこりをイメージしつつ、「キーボードのある風景」などとさり気なく仕事場アピなどすると、結構周りの食いつきがいいことに気づいた。
そうだ、これだ。手作り+ライターアピ。
その後しばらく、私はカフェや風景写真の合間に、ホットサンドやケーキなどのバックにキーボードが映り込んだ、実にあざといライターにおわせ写真を仕込むことに腐心した。
承認欲求と言わば言え、私はいいねが欲しいのだ。さあ押してくれ!!!
しかし、人は次第に飽きるもの。だんだん反応がイマイチになってきた。
そこで新しい一手を打つことにしたのである。それこそがカフェ系3大奥義の1つ「ワッフル」を召喚だ。
あと二つはプリンとホットケーキだ。あいつらマジ強い。
いざ、ワッフル召喚!!そして、その果てにあった深淵
キャンプ大人気の昨今、ワッフルメーカーはネット通販でもヨドバシでもどこでも買える。
ワッフルメーカーは、女性ウケしそうなクローバー型にした。4つにちぎれば一口サイズのハート型になる。この辺りもぬかりない。
完全な勝利の方程式が見える。
到着したワッフルメーカーの注意書きを読みながら、私は低糖質のパンケーキミックスを用意した。
ヘルシー志向を意識しているからね、そこもぬかりない。
付け添えは野菜のスープだ。完璧じゃないか。
さっそく説明書を見ながら生地を注いでいく。たしか写真では縁一杯だったからこんなもんだろう。
あとは蓋を閉じ、裏表各2分半ずつ焼くだけで、カフェ風のおうちカフェタイム写真が撮れるはず……
悲劇は焼き始め20秒の出来事だった。
ぶちゅぶちゅと、なんかワッフルメーカーから聞こえてはいけないのでは?と思われる濁音が聞こえた。
ぶちゅ…じゃないんだわ!!
加熱されて膨らみ始めた生地が、隙間から溢れ出してきてるううううう!!!
いやいやいやいや、でも少しだけなら溢れた程度ですむ……
と思ったか馬鹿め!!!
ワッフルの中の生地から嘲笑う声が聞こえてきそうな勢いで、反対側からも吹き出してくる。もう止められない止まらない。
ちょっと待って聞いてない。聞いてないよなにこれ!!!説明通りに入れたじゃん!!!
慌てて火を止め、ワッフルメーカーの蓋を開けた私を待っていたのは、驚愕の光景だった。
敗因は油の塗り忘れだ、馬鹿め…
なんで上下に分離しているのか、ちょっとよくわからないですね。
完全に型から抜ける気のないワッフル生地の威風堂々たる姿に、私は膝から崩れ落ちるしかなかった。
「手軽になんか飯作ってインスタばえしようなんて甘いんだよ、遊びじゃないんだよインスタは!!」
そんな声が、ワッフルメーカーにこびりついちゃって剥がれないワッフル生地から聞こえた気がした。
しかもなんとか食べようとしてコリコリ剥いでた時はビタイチ取れなかったくせに、諦めて水につけてふやかしたらツルンと取れて、いい焼き目がついているからさらに腹立たしく忌々しい。
なお敗因は、油の塗り忘れだった。
勝率は16.6%…ワッフルのハードルは高かった
その後、5枚のワッフルが犠牲になって散っていった。
そのうち、3枚半は剥ぎ取れたので食べた。
糖質60%オフの生地だから、普通の生地で焼いたワッフルの1.4枚分の糖質を摂取したことになる。低糖質とはなんだったのか。ヘルシーが草葉の陰で泣いている。
飛び散る生地、溢れ出す生地、焦げ付く生地、こびりつく生地。
ワッフルメーカーの理不尽さに発狂しかけるダンゴムシのすべてを受け止めた、男前なガスコンロ。
多くの犠牲の果てに、ついに完成した一枚がこちら。
そして私は失敗など存在しなかったかのように、流れる仕草でインスタを開くのだ。
「朝食はワッフルと白菜のスープ。コーヒーは手焙煎のさくらブルボンをハンドドリップしてみました。朝はやっぱりコーヒーの香りですっきりするのがしあわせ。」
#朝食 #丁寧な暮らし #自分らしく #自家焙煎コーヒー #こだわりの一杯
送信ボタンとともに、私のワッフルはワールドワイドウェブに流れ出していった。
ワッフルメーカーの隙間から溢れ出した生地のように。